難聴といっても種類がある。「感音難聴」と「伝音性難聴」である。
ソリッドソニック合同会社が開発した「SOLIDSONIC」は、伝音性難聴の方向けのイヤホンであるが、耳に入れる部分にシリコーンゴムを採用することになり、ジーティオーに共同開発を依頼された。
今回は「SOLIDSONIC」開発者であるソリッドソニック合同会社事業統括執行役員の田中哲廣様と、同製品のデザインを手がけるプロダクトデザイナー、ガモウプロダクトデザインスタジオの蒲生孝志様にお話を伺った。
伝音性難聴者向けの骨伝導イヤホン
難聴者の約70%を占める「感音性難聴」は内耳や聴神経に障害があるために起こるもの。
いわばソフトウエアのトラブルである。
難聴者の約30%を占める「伝音性難聴」はいわばハードウエアトラブルで、 音を伝える外耳・中耳の器官の障害によるもの。
鼓膜の後ろにある3つの骨(耳小骨)が音を振動に変えて蝸牛に伝え、さらに振動をパルスに変換して脳に伝えるのだが、鼓膜や耳小骨に障害があると音が伝わらないわけだ。
難聴の方の聞こえを良くするものとして補聴器がある。
これは外界の音を大きくして耳に伝える電気的増幅器であるが、伝音性難聴の方にはあまり効果がない。
「SOLIDSONIC」は骨伝導により蝸牛にダイレクトに音を伝えるイヤホンで補聴器とは異なるものであるが、骨伝導イヤホン自体は既に製品化されていた。
しかし振動にロスが多く、それが音漏れに繋がるという欠点があった。
「SOLIDSONIC」は、耳に入る部分の形状を工夫することによりロスを減らすことを目指して、開発が始まった。
そこで重要なのが、開発者、プロダクトデザイナー、そしてシリコーンゴムに詳しい共同開発メーカーの三者による開発である。
「イヤホン内部の圧電セラミックスの振動を安全に、より正確に伝えるためには、耳に入れる部分にシリコーンゴムを使うべきだという考えをもっていましたが、いろいろなメーカーがあり、どこに頼んだら良いか悩んでいました」と仰る田中様。
大阪産業創造館の「機能性ゴム・プラスチック展」出展企業を調べたところ、ジーティオーが見つかり「ホームページを見て、無理を聞いてくれそうな会社」だと思ったという。
使う人に優しいから、シリコーンゴムをあえて採用
ソリッドソニック様では開発当初、ウレタンゴムも検討されていた。
だがウレタンゴムは、使っているうちに色が黄変したり、水分や紫外線により劣化してしまう。
良い品質のものを長く使いたいというユーザーの身になれば、それは受け入れられないことである。
また量産化まで考えると、ウレタンゴムよりシリコーンゴムの方が優れている。
そのためあえてシリコーンゴムの採用を決めたのだが、やはり試作では苦労が尽きなかった。
イヤホンの中に空気が入ると、真ん中にある振動子からの伝導にロスが生じる。
それは、真摯な姿勢で製品開発に取り組んでいる田中様と蒲生様にとって、許されないことだった。
シリコーンゴムは、シリコーンゴム製パーツをシリコーンの接着剤で接着することにより、パーツ間の隙間を埋めて密閉することができる。
また、量産化するためには後工程まで考慮しなければならないが、以前の試作品は組み立てがしにくい形状だった。
組み立てに時間がかかるとコストに影響し、価格を上げざるを得なくなってしまう。
そこで、パーツをさらに分けるなど形状変更の提案をジーティオーからおこなって、採用して頂いた。
量産化へ向けて、さらなる改良に共同で取り組む
試作品を難聴者に試してもらったところ、ほとんど聞こえない方が「音が聞こえた」「言葉として分かった」という評価を頂いている。
しかし、改良しないといけない点はまだまだある。出力が弱いのである。
「設計上はピッタリとパーツを組んでいるはずなのですが、実際の製品には空気が入っていたからです」と蒲生様。
これは接着剤の選定ミスが原因だ。
パーツを接着する際には接着剤を流し込むのだが、やや固めの接着剤だったため、隙間ができてしまったのだ。
ジーティオーは早速、より粘度が低い接着剤を提案した。
このように、シリコーンゴム製品の開発は試行錯誤の連続となることが多い。
「トライアンドエラーを一緒にやってくれます。言ったことしかやってくれないところも多いんです。海外だと『言った通りやったでしょ』でおしまいですし。」(田中様)
今はまだ試作段階であるが、ジーティオーに共同開発を依頼したことにより、量産へのめどが付いた。
今後、補聴器自体が骨伝導方式に変わっていく可能性が大きく、大手メーカーも取り組んでいる。
そのような将来性のある分野だけに、早期の量産化が求められる。
ジーティオー藤田社長は「量産化を考えた形状へとさらに改良を進めます」と約束した。
「SOLIDSONIC」は1~2年後に量産化する予定である。
2016/08/10